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「豊国にかほ」と呼ばれた人 歌川国貞(三代豊国)

嘉永6年(1853)に出た評判記『江戸寿那古細撰記』は、当時の浮世絵師を「豊国にかほ(似顔)、国芳むしや(武者)、広重めいしよ(名所)」と並べています。似顔絵なら豊国、武者絵なら国芳、名所絵なら広重。ここでいう豊国が、若いころ国貞と名乗った三代歌川豊国です。

国貞から豊国へ

国貞は天明6年(1786)、本所五ツ目の生まれ。渡し船の株をもつ材木問屋の家だったと伝えられます。十五、六歳で初代歌川豊国に入門し、二十二歳ごろに本格的なデビューを果たしました。五渡亭、香蝶楼などの号を使い、役者絵と美人画で早くから人気を集めます。

天保15年(1844、この年の暮れに弘化と改元)に師の名を継いで豊国を名乗り、本人は「二代」と称しました。ところが、初代の養子の豊重が文政8年(1825)にすでに二代を名乗っていたため、今日では三代豊国と数えられています。元治元年(1864)12月に七十九歳で亡くなるまでに手がけた作品は、浮世絵師のなかで最も多いといわれます。

江戸のベストセラーと「源氏絵」

国貞の名を広く知らしめた仕事の一つが、柳亭種彦の長編合巻『偐紫田舎源氏』の挿絵です。文政12年(1829)から天保13年(1842)にかけて鶴屋喜右衛門から三十八編まで刊行され、『源氏物語』を室町時代の足利将軍家の物語に置き換えた筋立てが大評判になりました。国貞の描く主人公・光氏や女君たちは錦絵にもなり、「源氏絵」と呼ばれる流行を生みます。天保の改革で絶版を命じられたことも、その人気の大きさを物語っています。

役者見立ての東海道

嘉永5年(1852)、豊国は東海道の宿場と、その土地にゆかりのある芝居の登場人物を組み合わせた役者絵のシリーズを手がけました。画中の題は「東海道五十三次之内」。のちに「役者見立東海道五十三駅」とも呼ばれ、井筒屋庄吉をはじめ複数の版元から百三十図以上が出ています。

歌川国貞(三代豊国)《東海道五十三次之内 浜松 毛剃九右衛門》《東海道五十三次之内 日本橋品川の間 高輪 大星力弥》
歌川国貞(三代豊国)《東海道五十三次之内 浜松 毛剃九右衛門》/《東海道五十三次之内 日本橋品川の間 高輪 大星力弥》

作品データ

作品名
東海道五十三次之内 浜松 毛剃九右衛門
絵師
三代歌川豊国(国貞)
判型
大判錦絵
刊行
嘉永5年(1852)3月(改印による)
版元
井筒屋庄吉
似顔
五代目市川海老蔵

「浜松 毛剃九右衛門」に描かれているのは、近松門左衛門の『博多小女郎波枕』を歌舞伎に仕立てた『恋湊博多諷』に登場する、密貿易を働く海賊の頭目です。似顔は五代目市川海老蔵。太い棒を振りかざした姿と大きく見開いた目、背後の荒波と竜の文様が重なって、芝居の熱気が画面からあふれてきます。「日本橋品川の間 高輪 大星力弥」は同じ年の9月の改印で、『仮名手本忠臣蔵』の大星力弥を、雪景色の海辺を背に描いています。

八枚つなぐと、芳流閣

歌川国貞(三代豊国)《里見八犬士之一個 犬塚信乃戍孝》
歌川国貞(三代豊国)《里見八犬士之一個 犬塚信乃戍孝》

『南総里見八犬伝』の八犬士を一人ずつ描いた「里見八犬士之一個」も、豊国の筆です。画中には柳下亭種員による犬士の略伝が添えられています。この八枚は、二枚ずつ縦に四段重ねると、物語の名場面である芳流閣の屋根の上の決闘がひとつながりになるといわれます。犬塚信乃の似顔は八代目市川團十郎。刊行は弘化末から嘉永初めごろとみられますが、所蔵館によって記載が分かれています。

美人画「今様三十二相」

安政6年(1859)に藤岡屋慶次郎から出た「今様三十二相」は、仏の姿の特徴をいう「三十二相」にかけて、「すゞしさう」「さむ相」のように、女性たちの様子を「〜さう(相)」という題で描き分けた美人画のシリーズです。彫師は横川彫竹。明治20年(1887)から翌年にかけて月岡芳年が出した「風俗三十二相」の先行作としても知られています。当店のトートバッグには、このうち「始末がよさ相」をあしらいました。やりくり上手に見える、というほどの意味です。

広重との合作「雙筆五十三次」

歌川広重・歌川国貞(三代豊国)《雙筆五十三次 吉田》
歌川広重・歌川国貞(三代豊国)《雙筆五十三次 吉田》

嘉永7年(1854)から丸屋久四郎が刊行した「雙筆五十三次」は、豊国と広重の合作です。画面の上のほうに広重が宿場の風景を、手前に豊国が宿場ゆかりの芝居や物語の人物を描いています。人物と風景、それぞれの第一人者が一枚を分け合った、ぜいたくなシリーズです。

このストアの国貞アイテム

「今様三十二相 始末がよさ相」のトートバッグS(ブラック)と(ホワイト)、歌舞伎役者の似顔を大きく入れたデザインTシャツがあります。Tシャツの商品名にある「俳優似顔東錦絵」は、国立国会図書館が所蔵する錦絵の貼込帖(画帖)の題名です。一覧は歌川国貞のアイテムからご覧ください。

掲載した図版4点は、運営会社が所蔵する作品を撮影したものです。

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