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百鬼夜行図と妖怪画の系譜

「百鬼夜行(ひゃっきやぎょう、ひゃっきやこう)」とは、さまざまな妖怪が夜の闇のなかを列をなして歩き回るさまをいいます。これを描いた絵巻は室町時代に作られ、江戸時代には数多くの写本が生まれる一方、妖怪の図像は版本や錦絵にも広がっていきました。ここでは、京都・大徳寺真珠庵の「百鬼夜行図」を起点に、鳥山石燕の妖怪画集、歌川国芳の錦絵、そして幕末から明治にかけての作例までを順に見ていきます。

真珠庵本「百鬼夜行図」

百鬼夜行を描いた絵巻のうち、最古とされるのが、京都・大徳寺の塔頭真珠庵に伝わる「百鬼夜行図」(重要文化財)です。室町時代後期、16世紀の作で、土佐光信の筆と伝えられます。詞書はなく、青鬼や赤鬼のほか、琴、琵琶、笙、沓、扇、鍋、釜、五徳といった道具が化けた妖怪が、次々と画面に現れます。

古い道具が妖怪となって都を練り歩く『付喪神記』との類似が以前から指摘されており、西尾市岩瀬文庫は、その祭礼行列の場面を抜き出したものが百鬼夜行絵巻の原型と考えられるとしています。巻末には大きな火の玉が現れ、妖怪たちはあわてて逃げ去ります。この火の玉は、夜明けの太陽とも、尊勝陀羅尼の功徳による火炎ともいわれます。

写し継がれる絵巻

百鬼夜行絵巻は、江戸時代を通じて盛んに写され、また組み替えられました。現在、全国で六十を超える諸本が確認されており、それらは真珠庵本、国際日本文化研究センター本、京都市立芸術大学本、兵庫県立歴史博物館本の四つの系統に大きく分けられています。

たとえば兵庫県立歴史博物館の一巻(江戸時代後期、長さ約10.4メートル)は、真珠庵本の系統に属する六十九体の妖怪と、国際日本文化研究センターが所蔵する「百鬼ノ図」の系統の三十二体とを組み合わせて、一巻に仕立てています。「百鬼ノ図」は2007年に見いだされた絵巻で、妖怪研究で知られる小松和彦は、国内外の六十余点の伝本の画像を集めて比較しました。愛媛県歴史文化博物館の一巻(江戸時代後期)も、真珠庵本の図柄に道具の妖怪を数多く描き加えており、写し継がれるなかで、妖怪の顔ぶれが少しずつ変わっていったことがうかがえます。

版本と錦絵へ――鳥山石燕と歌川国芳

江戸時代中期になると、妖怪は絵巻を離れ、版本の世界にも広がります。安永5年(1776)に刊行された鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(三巻三冊)は、妖怪を一体ずつ名前とともに描いた画集で、『今昔画図続百鬼』(安永8年)、『今昔百鬼拾遺』(安永10年)、『百器徒然袋』(天明4年=1784)と続編が出されました。『百器徒然袋』には日用の道具が化けた付喪神が数多く登場し、絵巻以来の伝統が版本に受け継がれていることがわかります。石燕は狩野派の狩野玉燕に学んだ絵師で、喜多川歌麿の師としても知られています。

錦絵では、歌川国芳の「相馬の古内裏」(弘化2〜3年〈1845〜46〉頃)がよく知られています。山東京伝の読本『善知安方忠義伝』(文化3年〈1806〉)に取材した大判三枚続で、平将門の遺児・滝夜叉姫が荒れ果てた相馬の古御所に妖怪を呼び集め、大宅太郎光国がそれに立ち向かう場面を描いています。原作では骸骨が何体も現れるところを、国芳は一体の巨大な骸骨に置き換え、三枚の画面をまたいで大きく描きました。三枚続は一枚ずつでも絵として成り立つように描くのが通例でしたが、本図はその慣例にとらわれない大胆な構図をとっています。骨格の描写が正確なことから、西洋の医学書の挿絵を参考にしたのではないかともいわれています。

歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3年(1845〜46)頃
歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3年(1845〜46)頃

幕末・明治の百鬼夜行――河鍋暁斎と岩瀬文庫本

幼いころに国芳に入門し、のちに狩野派に学んだ河鍋暁斎(1831–89)は、晩年に『暁斎百鬼画談』を描きました。没年の明治22年(1889)に刊行された折本で(翌年の刊行とする資料もあります)、骸骨の軍団と妖怪の軍団が争う場面を含み、真珠庵本から続く百鬼夜行絵巻の集大成と位置づけられています。

西尾市岩瀬文庫が所蔵する「百鬼夜行之図」も、近代に入ってから描かれた百鬼夜行図です。作者は幕末から明治にかけての画人・松岡緑堂で、鮮やかな西洋の絵具が使われていることなどから、近代の制作と考えられています。長さ9メートルを超える画面には、付喪神のほか、大入道や一つ目小僧、般若、狐や大猿、大蛇、石灯籠の妖怪、オコゼに乗ったお歯黒の妖怪、蜘蛛の妖怪、骸骨と巨大な生首、幽霊などが次々に現れます。行列の先に待ち受けるのは武装した神々で、猪に乗って弓を引く摩利支天らに、妖怪たちは打ち負かされてしまいます。闇にひそむ恐ろしさよりも、明快でどこかユーモラスな妖怪の姿が印象に残る一巻です。

妖怪画を調べるために

国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪画像データベース」は、2010年に公開が始まったデータベースで、2026年3月現在、絵画資料五百四点、画像四千六百三十七件を収録しています。江戸時代から近代にかけての資料が中心で、絵巻や版本に描かれた妖怪の図像を検索して見ることができます。

当店の商品

当店では、岩瀬文庫が所蔵する「百鬼夜行之図」をもとにしたTシャツと、国芳の「相馬の古内裏」を図案にしたTシャツを販売しています。一覧は妖怪・百鬼夜行のグッズからご覧ください。国芳については、歌川国芳と戯画でも紹介しています。

掲載した図版は、Wikimedia Commonsで公開されているパブリックドメインの画像です。

参考資料

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