
夏の縁日などで親しまれる金魚は、室町時代の終わりに中国から伝わったとされる観賞魚です。江戸時代には飼育の手引書が刊行され、夏には金魚売りの呼び声が町に響くようになりました。本稿では、金魚の渡来と普及の歩みをたどり、金魚を人に見立てた歌川国芳の揃物「金魚づくし」を紹介します。
金魚の渡来
金魚は、文亀2年(1502)に明から和泉国の堺に伝わったのが始まりとされます。辞典ではほぼ定説として扱われていますが、その典拠は寛延元年(1748)の安達喜之の飼育書『金魚養玩草』の記述で、渡来からおよそ二百五十年後に書かれたものです。その後、安永・天明年間(1772〜88)には、琉金が中国から琉球を経て伝わりました。
金魚売りの呼び声
渡来した当初の金魚は、貴族や富裕な人々が楽しむ珍しい愛玩物でした。『日本大百科全書』は、江戸時代中期には一般の人々のあいだにも飼育が広まり、夏の金魚売りの呼び声が江戸の風物の一つになったとしています。「金魚売」は夏の季語で、安永3年(1774)刊の『誹風柳多留』九編に早くも用例が見えます。5月ごろから8月ごろにかけて、金魚売りは「金魚やあ金魚」と語尾を長く伸ばして町を流し、幕末から明治にかけては、金魚を入れた桶を天秤棒で前後に担いで売り歩きました。
一方で、金魚が庶民のあいだに広く行きわたったのは明治時代のことだとする見方もあります。明治に入ってガラスの金魚鉢が安く出回るようになると、金魚売りは東京の下町の夏の風物詩として定着しました。普及の時期については資料によって幅がありますが、江戸時代後期には町の暮らしにも金魚が入り込み、明治になっていっそう身近になったと考えられます。
産地と飼育書
現在の主な産地の一つである奈良県大和郡山市では、享保9年(1724)に柳澤吉里が甲斐国から郡山に移った際に、金魚の養殖が始まったと伝えられています。幕末には藩士の副業となり、明治維新の後は、禄を失った藩士や農家の副業として盛んになりました。現在も約四十戸の養殖農家が、年に約四千二百万匹を販売しています。『世界大百科事典』は、愛知県の弥富、奈良県の大和郡山、東京の江戸川下流域を、古くからの三大生産地に挙げています。
先に触れた『金魚養玩草』は、尾の形、雌雄の見分け方、水を替える時期、病気とその治し方などを記した飼育書です。弘化3年(1846)にも大坂の河内屋木兵衛から版が出され、増補本も作られるなど、長く読み継がれました。
国芳の「金魚づくし」
金魚を主役にした浮世絵として最もよく知られるのが、歌川国芳の揃物「金魚づくし」です。金魚を人に見立てて、江戸の夏の暮らしを演じさせたシリーズで、東京国立博物館は「現在9図が確認されています」としています。判型は中判で、刊行は天保13年(1842)頃と推定されています。
「百ものがたり」では、金魚鉢を鋭い目でのぞき込む猫に、金魚たちが驚いて逃げまどいます。「玉や玉や」は、その売り声で知られた江戸のシャボン玉売りを金魚に演じさせた一図です。「酒のざしき」では、盃を傾ける金魚、水草の花を手に踊る金魚、すくい網を三味線のように抱える金魚が集い、蛙も加わって酒宴を開いています。肴の皿に盛られているのは、金魚の餌になる赤い虫です。「いかだのり」では、筏に乗った二匹の金魚が竿を操り、奥では蛙が小舟に棹をさしています。


「ぼんぼん」は、盆のころに少女たちが手をつないで横に並び、歌いながら町を歩いた「ぼんぼん(盆々)」の行事を描いたものです。柳の下で、団扇を手にした金魚たちがひれを取り合っています。この図は長く所在が知られておらず、2011年の「没後150年 歌川国芳展」で初めて公開されました。2018年に大阪市立美術館で開かれた「江戸の戯画」展では、確認されている九図が初めてそろって展示されています。同展の資料は、上方で出版された「金魚 けんじゆつ」(絵師不詳)が、国芳の幻の十図目を写したものである可能性にも触れています。
国芳の金魚は、人のしぐさを借りながらも、ひれや尾の動き、丸みのある体つきは金魚そのものです。生き物の観察と芝居や風俗への目配りとが、一つの画面に同居しているところに、この揃物の面白さがあります。国芳の戯画については、歌川国芳と戯画でも紹介しています。
美人画と子ども絵のなかの金魚
金魚は、国芳以前の浮世絵にも描かれています。シカゴ美術館は、喜多川歌麿が金魚を題材にした作品を二点所蔵しており、そのうち一点は、子どもの姿を描いた歌麿の揃物「風流子宝合」の一図(1802年頃)です。夏の暮らしを描く画題として、金魚は女性や子どもとともに描かれることもありました。
当店の商品
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掲載した図版は、運営会社が所蔵する作品を撮影したものです。













